糖尿病センター 自己管理の教育支援

当センターでは、米国糖尿病学会、米国糖尿病療養指導士会および米国栄養士会が共同で発表している最新のガイドライン*に準じ、糖尿病自己管理教育や支援を提供いたします。

【用語説明】
*ガイドライン:科学的根拠に基づき、病気の予防/診断/治療等の根拠や手順をまとめた指針

ガイドラインが求める取り組みとは?

  • 2型糖尿病と共に生きる地域のすべての皆様が、糖尿病自己管理教育や支援サービスを確実に受けられる体制
  • このサービスを推進するため、すべての医療提供者および医療制度に協力を求めること

当センターもこの目標に応える体制を整え、地域の2型糖尿病を持つ皆様一人ひとりのニーズに応じた糖尿病自己管理のための知識・技術および能力を高める教育や支援を行い、皆様の「合併症の予防」と「生活の質の改善」に貢献することを目指します。

「糖尿病の主治医は皆様自身」

私たちチームが提供する教育や支援により、一人でも多くの皆様がより良い自己管理を身につけていただけるよう願っています。

得られる具体的な利益

糖尿病自己管理教育や支援を受けることで、皆様が具体的に確認できる多くの「利益」が得られることが報告されています。

ヘモグロビンA1c値*の低下

初めて糖尿病と診断された人を1~2日で無料受講できる5~7時間教育プログラムへ参加した群と参加しなかった群とに分けて比較したところ、ヘモグロビンA1c値が高かった参加群ほど参加しなかった群に比べて、6~18か月後のヘモグロビンA1c値がより大きく低下していることが示されました。
ごく短期間の教育プラグラムを1回受けるだけでも長期にわたって大きな利益をもたらす結果でした。
その他の研究も含めますと、糖尿病自己管理教育/支援を受けることで、2型糖尿病者のヘモグロビンA1c 値を~1.0%ほど低下させると考えられています。多くの内服薬1錠で低下するヘモグロビンA1c値は0.5~1.0%ですので、教育や支援には無視できない効果が期待できることになります。

*過去約2か月間の平均血糖値を示す値
※図:カナダ・カルガリーで行われた研究の結果

新規診断糖尿病患者への無料公共簡易教育プログラムの効果

再入院の減少

下図は、入院したことのある糖尿病者を対象にした米国オハイオ州立大学からの報告です。
左図は、退院後30日以内又は180以内に再入院した人と再入院しなかった人とに分けて入院中の糖尿病教育を受けた割合を示したものです。
左図を見ると、30日以内(黄色)又は180日以内(赤色)に再入院しな かった人ほど糖尿病教育を受けた割合が高い(それぞれ44%又は45%)ことが解ります。

一方、右図は医師だけによる教育を受けた割合を示していますが、30日以内又は180日以内の再入院のあり・なしで差はありませんでした。つまり、医師だけによる教育では再入院の頻度を減らす効果は不明で、看護師、栄養士、運動指導士など多職種からの教育支援が有効である可能性が考えられます。

血糖管理不十分な入院糖尿病者に対する糖尿病教育と再入院との関連性

入院率と入院費用の抑制

下図は、フィラデルフィアにある公共の初期治療クリニックを受診した糖尿病者の中で、一度でも糖尿病教育受けた人と全く受けなかった人とで、その後の平均4.7年間で入院率、入院費用に差があるか調査した結果です。
この研究では、18,404名の中で15,939名が一度も教育を受けませんでした。この場合、1年間100人あたり38,05回の入院があり、一人あたり1年間に使った入院費は10,258ドル(1ドル110円で換算すると約113万円)に達しました。

一方、栄養療法を受けたことがある1,683名では、1年間100人あたりの入院は21.06回と少なく、一人に1年間で使った入院費も4,744ドル(同様に換算すると約52万円)と半分以下に抑えられていました。また、それ以外の教育を受けた人についても、入院率、入院費用ともに低いことが示されました。
米国と日本では医療制度が異なりますが、教育/支援を受けることが皆様の入院の負担を大きく減らすことにつながると期待されます。

栄養指導、糖尿病教室と平均4.7年間での入院率と費用

その他

その他、糖尿病自己管理教育/支援は、「健康的な食生活」や「定期的な運動習慣」といった生活習慣や健康への向き合い方の改善、「自己効力感(ある行動や課題を自分が達成できるという信念)」や「自信」、「糖尿病に関連する不安」や「うつ」の軽減につながることが報告されています。また、教育/支援を受けた時間が長いほど、より大きな利益につながることも示されています。

食習慣評価と改善支援 【専門的支援(1) 食事】

管理栄養士による栄養療法を受けることで、1型糖尿病者さんにおいて1.0~1.9%、2型糖尿病者さんにおいて0.3~2.0%のヘモグロビンA1c値低下効果があると考えられています。
また、血糖、脂質、血圧管理に有益な効果をもたらすには、5%以上の体重減少が得られるような総エネルギー摂取量の減少が必要です。
これらの効果を得るために、どんな方にも一律にお勧めできるワンパターンの栄養療法はありません。栄養療法は、以下の点を考慮して一人ひとり個別化すべきとされています。

  • 年齢
  • 現在の食事パターン
  • 健康に関する知識や理解力
    (ヘルスリテラシー)
  • 病状
    (血糖、脂質、血圧管理状態、肥満、骨格筋量など)
  • 身体活動
  • 個人的又は文化的な好み
  • 生活習慣を変える意欲、能力や障害
  • 薬物療法
  • 健康的な食品へのアクセスなど

私たちチームは皆様のご負担の許す範囲でこれらの聞き取りと評価を行います。そのうえで、一人ひとりの食習慣の問題点を話し合い、達成可能な改善点を提案いたします。
以下の具体例にあげた項目等に着目して確認を行い、一人ひとりにあった実践可能な改善点を提案いたします。バランスの良い多様で健康的な食習慣は残し、一つでも皆様の病状の悪化に関連する偏った食習慣を減らすことを一緒に目指しましょう。

血糖管理不十分な場合 単純糖質(果糖や砂糖)の多く含まれる食品(代表的には果物やお菓子、甘い飲み物(フルーツ/野菜ジュース含む)、精製穀物含有量の高い加工食品(代表的にはせんべい、菓子パン)
脂質管理不十分な場合 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸(マーガリン/ファットスプレッド/ショートニング)の多く含まれる食品(代表的にはお菓子、安価なレトルト/加工食品)
血圧管理不十分な場合 塩分の多く含まれる食品(代表的には漬物、乾物、保存食品)と生野菜
体重管理不十分な場合 1日の総エネルギー摂取量(若い方ほど変動が大きく、1.5~2倍近く変動しますので、できれば3~4日以上の食事記録が必要です)
骨格筋量減少ある場合 蛋白摂取量(やはり日差変動が大きいため、できれば5~6日間以上の食事記録が必要です)
糖尿病性腎臓病のある場合 蛋白摂取量(1日摂取量が目標体重(kg)当たり1.5g以上、又は総エネルギー摂取量の20%以上の場合、過剰と判定されます)と塩分摂取量(1日6g以下が理想です)
その他 アルコール摂取量、食べる回数/時間、間食や外食の回数など

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評価/支援依頼には所定書式が必要となります。
以下よりダウンロード頂き、記載をお願い致します。

身体能力評価と改善支援 【専門的支援(2)運動】

運動療法には、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動(ヨガ)や柔軟性を高める運動(ストレッチ)があります。それぞれ単独でも効果がありますが、併用することで更に効果が高まることが期待されます。
2型糖尿病者が適切な運動療法を行った場合、以下の効果が報告されています。

  • 心肺能力の改善
  • うつの改善
  • 脂肪肝の改善
  • メタボリックシンドロームの改善など
  • 身体能力の改善
  • 血糖管理改善
  • 脂質異常症の改善
  • 心の健康/自尊心の改善
  • 肥満の改善
  • 高血圧の改善

以上のように、運動療法は心身の健康を増進し、様々な疾患の予防や改善につながります。
私たちチームは皆様の安全で効率的な運動療法を支援するため、まず日常の身体活動、運動習慣と身体能力の評価をさせて頂きます。

[体組成(体脂肪や骨格筋量)/握力/歩行速度/柔軟性/俊敏性/平衡機能]

※より詳しい下肢筋力、心肺能力や安全な運動療法のための合併症(神経障害含む)評価(メディカルチェック)をご希望の際は医師のよる診察が必要です。まずは糖尿病内科新患予約をお取りください。

糖尿病と身体能力について

2型糖尿病者では同性、同年齢の正常者に比べて、開眼/閉眼片足立ち時間(平衡機能)、垂直跳び(下肢筋力/瞬発力/協調性と平衡機能の複合)、握力、体幹側屈(柔軟性)の全てのパフォーマンスが低いことが報告されています(下図)。

2型糖尿病者の身体能力

身体能力低下と注射製剤の必要性

私たちの調査では、入院時に開眼片足立ち時間60秒未満の2型糖尿病者は、同性、同年齢で開眼片足立ち時間60秒以上の2型糖尿病者と比べて、退院時にインスリンなどの注射製剤を中止できる割合が低いことも示されています(94.1%対50.0%)(下図)。

入院時開眼片足立ち時間と退院時注射製剤中止率

普段から運動を心がけ、身体能力を維持しておくことが、血糖管理に重要と考えられます。 私たちチームは、皆様一人ひとりの生活スタイル、体組成や身体能力に応じた実践可能な運動療法の改善点を提案します。

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評価/支援依頼には所定書式が必要となります。
以下よりダウンロード頂き、記載をお願い致します。

その他

※身体能力評価と改善支援については、当院メディカルショップで1回につき1,500円(税別)分のチケット購入が必要となります。

心の健康評価と改善支援 【専門的支援(3)心理】

心の問題

日本を含む世界13カ国で2000年から2001年にかけて実施されたDAWN研究の結果から、糖尿病自己管理の妨げとなる「心の問題」を持つ人はけっして少なくないことが示されています。 糖尿病の診断時から、毎年定期的に、また皆様の心身の負担になる治療が始まったり、重い合併症が生じたりした場合など折りに触れて、「心の問題」が評価され、皆様へ必要な支援が行われることが推奨されています。特に、糖尿病自己管理を行う準備が全く出来ていない場合、まず皆様の求め、人生観や価値観を十分確認、理解することを徹底し、次に皆様に医療者の思いや願いをお伝えする取り組みが求められます。結果として、管理や治療がもたらす利益が負担を上回ると皆様が納得できる提案を行うことが必要です。 糖尿病自己管理に影響を与える代表的な「心の問題」として以下があげられます。

  • 糖尿病に関連する苦痛
  • 生活のストレス
  • 不安
  • うつ

※糖尿病に関連して生じる心の負の反応(途方に暮れる、希望がない、自分にはどうすることもできないなど)と感じる重荷(負担)を指します。
これらの「心の問題」を放置しておくと、場合によっては血糖や血圧管理を悪化させ、「心の問題」→糖尿病合併症の悪化→更なる「心の問題」という悪循環を形作ってしまう可能性があります。

一方で、「心の問題」を全く持っていない方が少数派かもしれません。
多くの方が「心の問題」と付き合い、前向きに生きようとしています。
しかし、「心の問題」が大きすぎたり、なかなかうまく対処できなかったりする場合、一人だけで考えこまず、専門家からのアドバイスを受けることで「心の問題」の軽減や対処の助けとなり得ます。

3つの力

糖尿病自己管理を行うためには、以下にあげる「3つの力」が不可欠です。

  1. 理解力
  2. 行動力
  3. 精神力

食習慣で例えると、どんな食べ物や食べ方が血糖、脂質、血圧や体重管理に影響するのかを知る「理解力」が必要ですが、「理解力」があっても実際に食事を準備するための「行動力」がなければなりません。「行動力」は体に障害があっても低下しますが、自身の習慣を他者から評価されることや習慣を変える苦労、失敗への不安と言った「心の障壁」を勇気を持って乗り越える「精神力」も不可欠となります。特に、「精神力」には、物事に折り合いを付ける力、自分を信じる力、自制する力、立ち直る力、病気を自覚する力、自主的に対処する力などが様々な側面があり、いずれも自己管理の継続に大切です。

心の健康は、この「3つの力」を生み出す源であり、お互いをつなぐ架け橋となります(下図)。

糖尿病自己管理のための「心身の健康」と「3つの力」

高齢化

日本社会の高齢化に伴い、2型糖尿病の約4人のうち3人が60歳以上となっています。
高齢になると、どうしても「理解力」、「行動力」、「精神力」ともにおとろえがちになるますが、その原因として認知障害やうつが潜んでいることがあります。

当センターでは、皆様の認知機能やうつの状態を評価し、専門的な治療が必要な異常があった際は対応をご相談します。
最近行われた軽度認知機能が低下した高齢者を対象とした研究で、生活習慣(食事/運動/社交活動)指導と認知機能訓練を組み合わせることで、これらの介入を行った群の認知機能(情報処理能力や遂行能力)が改善することが報告されました(下図)。

認知機能低下予防のための2年間の食事/運動/社会活動/認知機能訓練の介入効果

また、最近フランスから発表された65歳以上の高齢者の食品の食べ合わせと認知症発症との関連を12年間追跡調査した研究では、認知症を発症した方は食肉加工食品やお菓子などに偏った食べ合わせになっており、発症しなかった方では野菜や魚介類を含む様々な食品を食べ合わせていたことが示されました。
今後、より多くの研究結果と比較する必要がありますが、早期から生活習慣改善や訓練を行うことで、薬物療法に頼らずに認知症の発症予防につながる可能性があります。

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評価/支援依頼には所定書式が必要となります。
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依頼指示箋

アンケート

当チームでは、自己管理教育支援を受けられた皆様を対象に以下の簡単なアンケート調査を行っています。
ぜひご協力ください。

※調査の結果は私たちチームで共有され、より良い提案につながるように活用されます。
更に、対応が必要な問題点がある場合には、通院中の医療機関の担当医師、看護師やソーシャルワーカー等へもご報告、ご相談することができます。

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アンケート提出先

教育支援を受けられた部門に提出ください。