高血糖緊急症とは?
急激に生じる糖代謝の破綻状態のことで、放置すると著しい高血糖状態となり生命の危険性もある合併症です。実際、1922年に膵臓で作られる血糖値を下げる働きをするインスリンでの治療が導入されるまでは死の病でした。必ずしも糖尿病者だけではなく、糖尿病と診断されたことがない方や境界型と診断されていた前糖尿病状態の方にも発症することがあります。
高血糖緊急症は下記の2種類に大別されます。
- 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)
- 高浸透圧高血糖状態(HHS)
01 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)
DKAは血糖値を下げる働きをするインスリンが十分作られていない方に発症します。現在の先進国では、適切な治療により死亡率は著明に低下(<1%/高齢者や重篤な併存症の合併時>5%)していますが、医療資源の乏しい発展途上国では今でも高い死亡率(DKA?30%)が報告されています。
下図にDKAの病態を示します(医療従事者用)。
02 高浸透圧高血糖状態(HHS)
HHSは何らかの原因で脱水となり、インスリンの働きが減弱してしまう(インスリン抵抗性という)状態で発症します。脱水を引き起こした原因によりますが、先進国でも~5-20%の高い死亡率が報告されています。
下図にHHSの病態を示します(医療従事者用)。
症状
DKAとHHSに共通した症状として以下があります。
- 頻尿/多尿(尿の回数/量が多い)
- 多飲(喉が渇き水分をたくさん飲む)
- 脱水(口が渇き、眼がくぼみ、皮膚が乾燥し、体重が減る)
- 消化器症状(食思不振、嘔気、嘔吐、腹痛)
- 意識障害
(呼びかけたり身体を揺すったりしても眼をあけない、返事をしない、体を動かさない)
DKAのみにみられる症状として以下があります。
- 意識のなく深く大きな呼吸
- フルーティ(梨のよう)な口臭
治療(医療従事者用)
基本は低用量のインスリン持続静脈内投与と水・電解質の適切な補充になります。
以下は当センターで推奨する治療アルゴリズムですが、あくまで目安としてご参照ください。
Ⅰ.点滴内容
基本は低用量のインスリン持続静脈内投与と水・電解質の適切な補充になります。
- 低Na血症のみ:生食
- 低Na血症以外:1/2生食(各施設の薬品供給室等で作製)
- 高血糖改善後(DKA<250mg/dl/HHS<300mg/dl):約4-5%ブドウ糖添加(例:(1/2)生食1Lにブドウ糖注50%を80-100ml添加)、またはブドウ糖添加3号液(高K以外)
Ⅱ.点滴内カリウム添加
- 高K血症以外:塩化カリウム20-30mEq/L添加
- 高K血症のみ:塩化カリウム添加なし
Ⅲ.24Hr補液量
摂食不良となってからの推定体重減少量(kg)x0.5-0.8(L)/24Hr
(推定体重減少10kg=5-8L/24Hrペースで補液)
Ⅳ.ヒューマリンR持続静注(ヒューマリンR1.0U/生食1.0mlの溶解液作製(例:生食49.5ml(50ml可)+ヒューマリンR50U溶解)
- 高血糖時(DKA≧250mg/dl/HHS≧300mg/dl):約0.05-0.1U/kg /Hrペースで持続静注(例)体重70kg=ヒューマリンR:3.5-7.0U/Hr持続静注
(※)血糖是正を急がない場合はより低用量からの開始を選択
(※)至適血糖低下速度=50-70(100許容範囲)mg/Hr - 高血糖改善後(DKA<250mg/dl/HHS<300mg/dl):
(DKA)点滴内ブドウ糖5-10g
(HHS)点滴内ブドウ糖2.5-5g
に対してヒューマリンR1U割合で投与
(例)4%ブドウ糖(40g)液1Lを4時間で点滴する場合:
(DKA)ヒューマリンR=4U-8U/4Hr=ヒューマリンR1.0U-2.0U/Hr持続静注
(HHS)ヒューマリンR=8.0-16U/4Hr=ヒューマリンR2.0-4.0U/Hr持続静注
血糖値を経時的に測定し以下のスケールで調整(例):
>250→+0.2-0.8U/Hr(+20%)
>200→+0.1-0.4U/Hr(+10%)
100-200→変更なし
<100→-0.2-0.8U/Hr(-20%)
<80→-0.3-0.1.2U/Hr(-30%)
<60→一旦中止
一旦中止後、>200→中止直前の半量で再開しスケール同じ
Ⅴ.血糖測定頻度
- 高血糖時(DKA≧250mg/dl/HHS≧300mg/dl):1-2時間毎
- 高血糖改善後(DKA<250mg/dl/HHS<300mg/dl):2-4時間毎