診療科 外科

専門治療

腹腔鏡下手術

同じ手術をするなら、小さい傷の方がいい

そう願う患者さまの思いは、当然のことです。
私たちは、この声に応えてゆきたいと考えています。
当科では、以前より腹腔鏡下による胆嚢摘出術や大腸切除術を行ってきましたが、その他の手術においてもできるかぎり創を小さくして、手術による身体への負担を軽減する低侵襲手術を導入しております。
例えば従来は、肝切除術では開腹のために約20㎝近い傷で手術を行っていました。腹腔鏡に適したケースでは、原則的に臍(へそ)を利用した3-4㎝程度の創と 0.5㎝から1㎝程度の孔を、数か所開けるだけで手術を行いますので、手術後の創痛も少なく、傷は目立ちません。

腹腔鏡下の手術に際しては、大画面モニターで病巣を確認しながら、細心の注意を払い慎重に手術を行っています。
良い手術をするためにはチームワークが重要です。

腹腔鏡手術は開腹手術と比較して、小さな傷で行うため、傷が目立たず痛みが少ないなど、患者さまにとって負担の少ない手術です。
腹腔鏡で手術できる疾患は、近年の医療機器や医療技術の進歩により大幅に適応が拡大し、当院では年々増加傾向にあります。

手術室での診療

膵嚢胞性腫瘍

膵嚢胞 (すいのうほう)とは、膵臓内にできる、液体を含んだ袋状 の変化のことです。先天的な膵嚢胞の他に、膵炎や外傷にともなってできる仮性膵嚢胞があります。これらの多くは良性で、経過観察する ことが可能ですが、これらとは別に、腫瘍性の膵嚢胞があります。膵液を十二指腸へ送るための膵管の粘膜に「腫瘍」ができ、膵管内に粘液を充満させて風船のように膨らます、腫瘍由来の膵嚢胞なのです。この膵嚢胞には良性から悪性までさまざまな病変が含まれ、経過観 察が可能な病変と、手術が必要な悪性病変との区別が大変困難です。腫瘍性膵嚢胞は、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)漿液性嚢胞腫瘍(SCN) などに分類されていますが、IPMNが 圧倒的に多くみられます。

繰り返しますが、IPMNはすべて悪性というわけではありません。しかし、膵臓がんになりうる可能性のある膵嚢胞性腫瘍です。その悪性度の診断や治療法の選択には「国際診療ガイドライン」がありますが患者さまに合った適切な治療法の選択には、専門的な知識と経験が不可欠です。健診や通院中の定期的検査(超音波やCT検査)で偶然に、 膵嚢胞と診断されたら、まずは消化器専門施設を受診することをお勧めします。

IPMNの分類

IPMNは組織学的に以下の3型に分類されます。

主膵管型と分枝型では悪性度が異なり、混合型は主膵管型に準ずる悪性度を示します。

IPMN各分類による悪性・浸潤癌の割合について

主膵管型分枝型混合型
悪性62.2%24.4%57.6%
浸潤癌43.6%16.6%45.3%

IPMNの主膵管型では悪性が62.2%、そのうち浸潤癌が43.6%と高率に 認められ、絶対的な手術適応です。一方、分枝型では悪性が24.2%、浸 潤癌は16.6%にしか認めないため、全例すぐ手術が必要というわけではありません。ただし、慎重な経過観察と手術決定のタイミングを逃さないことが重要です。
特に、黄疸をきたしたり、膵嚢胞内に腫瘤 (充実成分) を認められた場合は、絶対的な手術適応です。
適切な治療法を選択するためには、専門的な知識と経験が重要です。

膵臓がん

膵臓がんとは、膵臓から発生した悪性腫瘍で、正式には浸潤性膵管がんと言います。膵臓にできる腫瘍の大部分を占め、全国の統計では、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんについで死因の第5位で、近年増加傾向にあります。健診の普及や検査機器の精度向上に伴い、早期に発見されるケースもありますが、発見された時点で、ほとんどが進行癌となっている治療が最も難しいがんのひとつです。
治療法では、手術が最も成績がよいですが、単独ではまだ十分な結果は得られていません。放射線治療や抗がん剤による化学療法などを組み合わせた集学的治療が必要です。

自覚症状としては、腹痛(約40%)黄疸(約15%)が多く、腰痛や背部痛、体重減少などを認めることがあります。また、糖尿病との関連が強く、突然に糖尿病を発症したり、急速な悪化は膵がんを診断されるきっかけになります。

患者さんに合った適切な治療法の選択には、専門的な知識と経験が不可欠です。膵がんを疑う自覚症状があったら、また検査で膵腫瘍と診断されたら、まずは消化器専門施設を受診することをお勧めします。

乳がん

乳がんの診断について

もしもみなさんが乳がんを心配して乳腺外来を受診されたときに、どのような手順で診断が行われるのでしょうか。

問診、視触診に加え、マンモグラフィ検査と超音波検査があります。触診でしこりが触れなくてもマンモグラフィ検査や超音波検査で見つかることがあります。

マンモグラフィ検査では乳房を適度に圧迫し一方向ないし二方向の撮影をします。乳房全体を一度に検索でき、質的な画像診断のほか、スクリーニング検査としても有用です。
乳がんに特徴的なしこりは濃度が高い白色で、辺縁がギザギザして写ります(資料1)。

さらに、細かくとげとげした大きさの不揃いな乳頭に向かい配列する、典型的な乳がんの石灰化(白い点)が見られることがあります(資料2)。

超音波検査は乳腺内のしこりに反射した超音波の状況を画像としてとらえるものです。マンモグラフィ検査では認識できなかったしこり、たとえば5mm程度の小さな乳がんの描出も可能です。20歳から40歳前後の乳腺密度が高い女性のマンモグラフィは全体的に真っ白な画像であ るので、乳がんのしこりがあってもはっきり見えない可能性がありますが、超音波検査では確実にしこりの同定ができます。

ここまでの診断でしこりや石灰化など異常所見が見つかった場合は超音波あるいはマンモグラフィをガイドにして、注射針を穿刺し吸引する針細胞診あるいは特殊な針で組織を小さくくりぬく針組織診が行われます(資料3)。組織の顕微鏡検査の結果からがんの悪性度、さらにがん治療の薬物に対する感受性などがわかり、治療計画を立てるのに非常に参考になります。

乳がんの治療について

顕微鏡検査で乳がんと診断されたら、全身の各臓器に乳がんの転移がないかどうか調べ るためにCT検査やMRI検査、核医学検査(シンチグラフィ)を施行し、治療の計画をたてます。
乳がんの治療は(1)初発乳がんに対する治療と(2)再発・転移の乳がんに対する治療があります。

初発乳がんに対する治療

初発乳がんの治療で最も効果的で科学的論拠があるのは、1手術、2薬物療法、3放射線療法です。

1. 手術について

直径1cmの早期発見された乳がんでも、がん細胞の数は一億個以上といわれますが、一度に取り去る「手術」が最も効果的です。
手術の方法は大きく分けて二つあります。
百年以上前から行なわれてきた乳房切除(乳房全切除)(資料4) と近年増加傾向にある乳房部分切除(乳房温存手術)です(資料5)。

乳房切除(乳房全切除)

例えばしこりが大きい、複数ある、皮膚にひどいひきつれがあるなど、がんの乳房内の進展範囲が 広いと予想される場合は乳房全切除が選択されます。

資料4
乳房部分切除(乳房温存手術)

一方乳房温存手術は現在では乳がんで手術される約60~70%の患者さんに選択されています。 乳房温存手術は、乳房全切除と同等の治療効果があることが証明されており、美容・機能上利点が多い優れた治療法です。

資料5
リンパ節の切除について 〜より患者さんにやさしい治療を目指して~

それぞれの乳房手術では、わきの下のリンパ節を切除して顕微鏡で調べます。以前はわきの下のリンパ節を取り残すと再発すると考えられていたので、転移していると思われるリンパ節のほか、腫れていない奥のリンパ節も切除していました。その結果、手術した上肢のむくみや挙上困難など様々な後遺症が見られていました。

世界の臨床研究でわきの下のリンパ節の切除の程度が予後に影響しないことがわかったので、転移していないリンパ節は可能な限りそのままとし、転移している、またその可能性があるリンパ節を切除し顕微鏡で調べて、乳がんの進み具合(ステージ分類)を評価、術後再発予防の治療計画の参考とする、というのが現在の考え方です。

みはりリンパ節って?
1色素法 2蛍光法 3ラジオアイソトープ法(写真無し)

乳房内の乳がんの病変から、わきの下のリンパ節のうち最初に異常(転移)をしめすリンパ節を「みはリリンパ節」といい、手術中に色素や特殊なカメラを用いてそれを同定し、手術中の迅速顕微鏡検査で転移がなければ、さらに奥のリンバ節の切除を省略可能とすることができ(資料6)、そのた術後の上肢のむくみや挙上困難は以前より少なくなってきました。
術中にみはリリンパ節の迅速顕微鏡検査を行い、がん細胞がない場合は腋窩リンパ節郭清を省略できます。上腕のむく みや痛みなどの後遺症がなくてすみます。

2. 薬物療法について

薬物療法には化学療法(抗がん剤療法) と内分泌療法(抗女性ホルモン療法)、分子標的療法があり、それぞれ内服あるいは注射で行います。手術後に薬物療法を加えることにより乳がんの再発率が減少し、生存率が向上することが証明されています。薬物療法は手術後に行われることが通常でしたが、最近では針組織検査結果から、患者さんの乳がんと相性の良い薬物療法が術前に判明するので、 手術前に薬物療法を行いしこりを縮小させることもあります。当初乳房温存手術が難しい場合でも、この治療の効果があれば可能となります。手術前の薬物治療で画像診断上、がんのしこりがほぼ消失することがあります(資料7)。

このような場合、手術をして「生きたがん細胞」が完全にないことが顕微鏡検査で証明されれば、再発の危険は低いとされてます。
薬物療法の選択に当たっては、がんに対する効能のほか、副作用、医療費など総合的に患者さんと相談して決定することが多いです。

3. 放射線療法について

放射線療法は乳房温存手術の後、乳房局所再発の予防のために選択することが多いです。放射線によりがん細胞のDNAにダメージを与え、がん細胞の増殖をとめ、細胞を死滅させる治療法です。

正常細胞はダメージが少なく、回復も早いので、がん細胞に対して効率よく攻撃できます。温存乳房や胸壁に対して接線方向に一日一回数分の照射を25回程度施行し、外来通院で可能です。

再発・転移の乳がんに対する治療

乳がんが再発・転移することが多い臓器は骨、わきの下のリンパ節や乳房局所、肺、肝、 脳などです。再発・転移の乳がんの治療は、手術でなく前述の全身的な薬物療法が主体で、疼痛緩和・局所制御目的に脳や骨など再発・転移したところに放射線療法を加えることがあります。

山田睦夫 【乳腺外科部長】
毎週月・金曜日午後に専門の乳腺外科外来をおこなっております。

食道の疾患

食道疾患の診療には高度の専門性とチームワークが求められます。特に食道癌に対しては、高度で精密な診断技術とともに、手術、放射線治療、抗癌剤化学療法など、様々な治療の中から、それぞれの患者さんにとって最適のものを選択し、あるいは組み合わせ、確実に遂行することが重要です。
当科ではその全てに豊富な経験を有する、 食道学会認定医が対応させていただいております。

取り扱う疾患

食道癌、逆流性食道炎(食道裂孔ヘルニア)、バレット食道、食道アカラシア、食道良性腫瘍、食道緊急疾患(食道破裂食道損傷・食道異物)

高度技術を駆使したリンパ節郭清を行い、長期予後の改善に努めております。

高齢な患者様、あるいはどんな併存疾患をお持ちの患者様でも、お気軽にご相談ください。
責任を持って、食道認定医が診察にあたらせていただきます。

当科での食道癌手術は様々な併存疾患を抱えた患者様、または高齢の患者様(最高齢 83歳)が多くを占めています。
しかし、術後約2週間程度で退院が可能となっております。

食道癌手術は高度の侵襲を伴う手術ですが、治療侵襲と根治性を十分に検討し、患者様に適した手術、治療を提案・遂行させていただいております。

下肢静脈瘤

2016年6月より外来手術で、「下肢静脈瘤血管内焼灼術」をおこなっております。最小限の創で静脈瘤を治すことができ
る低侵襲治療です。

最新のレーザー焼灼機(波長1470nm)と日本で最も細いファイバーを使用します。

  • 保険適応です。
  • 日帰り手術(外来手術)あるいは、1泊2日です。
  • ほとんど寝ているうちに終わります。

下肢静脈瘤(だるい・つる・色素沈着・うっ滞性皮膚炎)

足(下肢)の表在静脈の弁が壊れて(静脈弁不全)、下肢静脈瘤ができます。女性や立ち仕事の方(調理師・理容師など)は起きやすく、長い間かけて起きてくる病気です。急激に症状は悪化しませんが、放置すると皮膚の炎症(湿疹・色素沈着)や潰瘍をおこします。ほうっておいてもけっして良くなりません

下肢静脈瘤のおもな症状

  • だるい・むくみ・つる(こむらがえり):特に、夕方になると、 足の症状が強くなる。
  • かゆみや色素沈着:足がかゆくなり、皮膚に茶色の色素沈着がでてくる。
  • きず(潰瘍)と静脈瘤:足の静脈がぼこぼこして、きず (潰瘍)がなかなか治らない。これを繰り返す。

上記3つのどれかに当てはまる方、下肢静脈瘤でお悩みの方は、末梢血管外科外来へ受診してください。

下肢静脈瘤になりやすい職業

立ち仕事(調理師、理髪師、美容師、クリーニング業など)

当院での治療について

  • 末梢血管外科外来 (水曜日)を受診されてください。
  • 主に土曜の午前中に手術を行います。
    (レーザーが適応にならない時は静脈抜去術になります)
  • 術後、すぐに歩けますが、30分程度病院でお休みいただいた後、お帰りになれます。
    (当日、車の運転はできません)
  • 術後1か月程は弾性ストッキングを着用します。