太田西ノ内病院 麻酔科
神経筋疾患は脳から筋へ至る経路のどこかが障害されるために、呼吸筋が十分働くことができなくなることから呼吸不全となり易い疾患です。脳出血や脳梗塞では、脳障害から呼吸数、換気量が抑制されます。また、脊椎損傷や筋萎縮性側索硬化症では、脊髄の障害により呼吸筋の働きが障害され換気量が抑制されます。
このように様々な箇所での障害による呼吸不全に対して人工呼吸が必要となってきます。
人工呼吸の目的は
@減った酸素を多く取り込むこと(酸素化の改善)
Aたまった二酸化炭素を排出すること(換気障害の改善)
B息をするのが大変で、疲れてしまうのを楽にしてあげること
(呼吸仕事量の軽減)
です。
神経筋疾患ではまず換気障害をきたし易く、小さくなった換気量のために二次的に酸素化の障害や呼吸仕事量の増加を生じていることが多くみられます。そのため本疾患での人工呼吸は、換気障害の改善を主目的にすることとなります。
軽度から中等度の換気障害では、鼻マスクや顔マスクによる人工呼吸が適応できます。この場合、夜間のみの装着や二酸化炭素が増加した時、低酸素血症が生じた時など、常時人工呼吸器を装着しない管理もできます。しかし、重度化した場合には不完全で、痰が喀出できないなどの欠点があります。
また、特殊な人工呼吸療法として鉄の肺と呼ばれる方法もあります。かつてはツタンカーメン王の棺のような鉄の箱の中に体を入れ、陰圧を作り出し、換気を行っていました。しかし、現在では首から下に宇宙服のような服を着用し、陰圧を作り出し換気を行うことができるようになりました。ただ、治療にやや広いスペースが必要であり、痰が喀出できない、排泄が大変である等の理由により普及しておりません。
いずれの方法でも人工呼吸を中断すれば会話は可能です。また、カフマシーンの使用による痰の喀出、および会話の補助を施行すれば会話をする機能はしばらく残せます。
しかし、重度化した場合、気管内挿管下での人工呼吸が必要です。ギランバレー症候群のように、短時間(1〜2週間)で呼吸不全が改善するときは、口や鼻からの挿管での人工呼吸が可能です。しかし多くの患者さんでは、長期の呼吸管理が必要なため、気管切開をして、そこから気管カニューレを挿入し、気道確保をして人工呼吸をする必要があります。気管挿管を施行した場合には、会話はできなくなりますが、確実な換気量が確保でき、痰の吸引も十分できます。
人工呼吸が必要となった神経筋疾患患者さんの活動は大幅に制限されます。たとえば移動する場合は人工呼吸器と共に移動する必要があり、さらに遠方への移動時は介助者などによるバックを用いた換気を行い、呼吸維持をしなければなりません。患者さん御本人の精神的、肉体的苦痛はどんどん増加するため、医師、看護師、リハビリテーションスタッフだけでなく、御家族、MEスタッフ(人工呼吸器管理、維持)など、様々な人の協力が必要です。そのためには、早めに相談され、患者さんが希望する生活ができるようにすることが重要です。
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