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不眠症の臨床

太田西ノ内病院 精神科

 不眠症とは「夜眠れないことで苦しみ、そのために翌日の社会生活が障害されるもの」と定義されています。もしあなたが「睡眠が不十分で日中に辛い」とおっしゃるのであれば、不眠症と診断されることになります。ここでは不眠症を生じる睡眠障害の分類と、睡眠薬の種類と注意点についてお話ししましょう。

睡眠障害の分類

不眠症を生じる睡眠障害は@寝つくのに30分〜1時間以上かかる入眠障害A途中で2回以上目が覚める中途覚醒Bいつもより2時間以上早く目覚めてしまう早朝覚醒C睡眠時間は十分であるのに深く眠った感覚が得られない熟眠障害、の4つに分類されます。この内少なくとも1つが週3回以上あり、これが1ヶ月以上続いている状態が客観的に不眠症と診断されます。原因はa)心理的障害(精神的ストレス)b)身体的障害(痛み、身体的不調)c)精神医学的障害(うつ病や統合失調症など)d)生理的障害(夜勤シフト、時差ぼけ、睡眠環境の変化)e)薬理学的障害(インターフェロン、各種薬物など)などが挙げられます。一般的にa)は「神経症性不眠」と言われ、広義の不眠症といわれています。

睡眠薬の処方と種類

睡眠薬は年齢、全身状態を考慮した上で必要最小量から開始します。ですから開始日からすぐ眠れなくても一喜一憂するのではなく、1週間は連続して服用を続けてみましょう。医師は不眠の頻度、日常の生活レベルなどから総体的に効果を判断しながら、用量を少しずつ調節していきます。昔はバルビツール系睡眠薬が代表的でしたが、耐性や依存性、離脱症状が強いために現在はほとんど使用されておらず、安全で副作用の極めて弱いベンゾジアゼピン系睡眠薬等が主流です。さらに睡眠薬は大まかに超短・短時間型と、中・長時間型に分類され、睡眠障害のタイプに合わせて処方されます。

睡眠薬の注意点

医師の指示なしに勝手な判断で服用を突然中止すると逆に以前よりも強い睡眠障害が出現することがあり、これを反跳性不眠といいます。このような服用の自己中断は「睡眠薬は飲み続けると呆ける、どんどん量が増えていく」など昔の間違ったイメージがまだあるためでしょう。すると睡眠薬をやめるにやめられなくなり「睡眠薬は飲み始めるとやめられなくなる」という新たな誤解が生じることになります。眠れないため服薬を再開する時に、睡眠薬そのものと、中止時の不眠に対する恐怖感に悩む「睡眠恐怖」のジレンマに陥るのはそのためです。この現象は超短・短時間型睡眠薬を急にやめた時に生じることが多いといわれています。医師は睡眠障害と睡眠薬の両方のタイプを考慮しながら調節を行い、最終的には中止にすることを目標に処方しますので、自己の判断で睡眠薬をやめることは危険です。

睡眠とアルコール

睡眠薬の悪いイメージと表裏の関係で、わが国では寝酒をする人は30%と先進国の中でも飛びぬけて高い割合です。アルコールには入眠促進効果はありますが、一方で深い眠りとレム睡眠を抑制する効果があります。またアルコールの血中濃度が低下する時期には逆に覚醒する作用があります。したがって寝酒は寝つきが良くなっても途中で目覚めたり、朝早く目覚めたりするため睡眠の質は低下します。そのため熟睡感が得られずますます不眠に悩まされる悪循環に陥ります。

さいごに

不眠を訴えて受診される方のうち神経症性不眠症は約2割で、うつ病による不眠が半数近く占めるというデーターがあります。また生活習慣病(高血圧、高脂血症、糖尿病)は不眠の併発が多いことや、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は熟眠障害が深く関わることもよく知られています。当院では不眠症のご相談は主に精神科や心療内科、総合睡眠医療センターが対応いたしております。不眠は本人にとってはなかなか辛いものです。お悩みの方は是非一度医師にご相談されることをお勧めいたします。

 
 

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