太田西ノ内病院 産婦人科
妊娠高血圧症候群とは、妊娠20週以降,分娩12週までの間に高血圧となる疾患であり、時に蛋白尿や全身の臓器障害を伴うことがあります。
さらに,高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在する場合を高血圧合併妊娠と言います。
母児への影響が大きく、母体死亡や胎児新生児の死亡の原因となります。
2018年に定義分類が改定となります。
1) 妊娠高血圧腎症
@妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し,かつ蛋白尿を伴うもので分娩12週までに正常に復する場合。
A妊娠20週以降に初めて発症した高血圧に蛋白尿を認めなくても、以下のいずれかを認める場合で、分娩12週までに正常に復する場合。
・基礎疾患の無い肝機能障害
・進行性の腎障害
・神経学的障害(間代性痙攣・子癇・視野障害・頭痛など)
・肺水腫
・血小板減少
・胎盤機能不全による子宮内胎児発育遅延 など
2) 妊娠高血圧
妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し,分娩12週までに正常に復する場合。
3) 加重型妊娠高血圧腎症
@高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に蛋白尿、もしくは基礎疾患の無い肝腎機能障害,神経学的障害(間代性痙攣・子癇・視野障害・頭痛など),肺水腫,血小板減少(<10万/μl)のいずれかを伴う場合。
A高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降にいずれかまたは両症状が増悪する場合。
B蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に高血圧が発症する場合。
4) 高血圧合併妊娠
高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,加重型妊娠高血圧腎症を発症していない場合。
1. 妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症・高血圧合併妊娠において,次のいずれかに該当する場合
収縮期血圧(上の血圧) 160 mmHg以上の場合
拡張期血圧(下の血圧) 110 mmHg以上の場合
2. 妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において, 全身の臓器障害を認める場合
現在のところ、はっきりとした原因は分かっていません。いろいろな説がありますが、一番有力なのは、妊娠初期に胎盤の血管がうまく作れなかったことなのではないかと言われています。
@母体年齢:35歳以上、15歳以下の方。
A初産婦:初めてお産をする方。
B血のつながった家族に高血圧や妊娠高血圧腎症の人がいる方(特に母親、姉妹)。
C血のつながった家族に糖尿病の人がいる方。
D肥満:BMI 25以上は妊娠高血圧症候群になりやすいといわれています。
E甲状腺機能異常。
F前回の妊娠中に妊娠高血圧症候群になった。
G多胎妊娠。
などが挙げられます
1)子癇
妊娠20週以降に初めて起きたけいれん発作で、てんかんや脳炎などの疾患を原因としないもので、妊娠中、分娩中、分娩後のいずれの時期にも起きえます。
妊娠高血圧症候群が軽症であっても重症であっても起こりえます。
発症の予兆としてとして頭痛、視覚異常(チカチカする、かすんで見える)、上腹部痛などが認められることがあります。発症予防のために硫酸マグネシウム製剤の点滴を行います。
2)HELLP症候群
H:Hemolysis 赤血球が破壊される
EL:Elevated Liver enzymes 肝臓の機能が悪くなる
LP:Low Platelet 血小板減少
の3つの兆候が起こる疾患です。治療を行わないと血液が固まりにくくなったり、全身の臓器に障害が起こり重篤な状態になることがあります。
症状として、右上腹部痛・心窩部痛、嘔気嘔吐などがあります。
発症した場合、早期の分娩とします。
3)常位胎盤早期剥離
胎盤が赤ちゃんが生まれる前にはがれてしまう病気です。
全妊婦さんの約1%に起こり、妊婦さんの死亡率は5-10%、赤ちゃんの死亡率は30-50%との報告があります。
重症妊娠高血圧症候群や重症高血圧合併妊娠で発症の危険性が高まると言われています。
症状は強い下腹部痛、子宮の異常な硬さ(板状硬)、胎児の動きの減少、性器出血などです。赤ちゃんが子宮の中で亡くなることもあります。
治療は妊娠週数や母児の状態によりますが、多くの場合妊娠を終了させます。
4)肺水腫
肺に水分がたまり、酸素が取り込みにくくなる病気です。
主な症状は呼吸困難です。発症した場合は利尿薬を使って肺の水分を減らしたり、酸素を投与します。
5)脳卒中
脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などをまとめて脳卒中と言います。
妊娠高血圧症候群の方は妊娠中、分娩時、産後に脳卒中を発症する危険が高いと言われています。
胎盤への血流が低下しているため、赤ちゃんに十分な栄養や酸素が行き届きにくくなります。
1)栄養不足→子宮内胎児発育遅延
2)胎児低酸素症→子宮内胎児死亡につながる可能性もあります
外来では自己血圧測定を行っていただきながら、以下を行います。
@食事療法:過度な塩分をとらない
A肥満予防:間食をしない、体重制限など
B薬物療法:内服薬の服用
しかし病状が進行する場合、当初より重症の場合は入院管理が原則です。
(入院管理)
・基本は母児の厳重な管理と、安静・食事療法が基本です。
・必要に応じて薬物療法を行いますが、効果は不十分であることもあります。
母児の状態によっては妊娠の中断を考慮しなければなりません。
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