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アスベストと中皮腫

太田西ノ内病院 呼吸器外科

 最近にわかに注目されてきた、アスベスト被害と中皮腫の関係について述べてみたいと思います。

1.アスベスト(石綿)について

 石綿(アスベスト)は天然の鉱物で、名前のごとく繊維状になっていて、その繊維は0.02〜0.06マイクロメートル(1億分の2〜6メートル)と極めて細い針のような物質です。またアスベストの性質は熱や薬品に強いので、燃えない・腐らない素材としていろいろなところで利用されてきました。一般の人の周囲でアスベストに遭遇するのは建造物で、高層建築物や一般住宅の外装材や内装仕上げ材として使用されていたので、最新の建造物以外では、ほぼ全てに使用されていると考えたほうがよいかもしれません。しかし、飛散しないかぎり危険性は少ないと言われていますので、石綿がむき出しになっている所以外は、あまり心配してもという感じがします。石綿がむき出しになっていると必ず飛散します。また、近くの建築物の解体時には、アスベストが飛散するので、その建物にアスベストが使用されていたかが不明の場合には、使用されていたものと考え近づかず、また効果ははっきりしませんが、マスクをしたほうがよいと考えられます。

2.中皮腫について

 中皮というのは、体のなかで臓器の表面を覆うもので、その動きをスムーズにしています。中皮は胸膜、腹膜、心嚢膜などを形成しています。この中皮の細胞から発生した腫瘍が中皮腫です。それが胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫です。それらにはそれぞれ良性と悪性があります。これら中皮腫でアスベストと強く関係していると考えられているのが悪性中皮腫です。悪性中皮腫の発生部位別の割合は、悪性胸膜中皮腫がほとんどを占め90%位で、悪性腹膜中皮腫は5%程度で、悪性心膜中皮腫はわずか1%未満です。これは、アスベストの進入が吸入により肺から入ることによって起こることの傍証ともいえます。ここでは、中皮腫のうち大部分を占める胸膜中皮腫の良性と悪性胸膜中皮腫について述べることとします。良性胸膜中皮腫と悪性胸膜中皮腫とでは腫瘍の性状や治療法などが異なってきます。
 
(1)良性胸膜中皮腫について
 良性胸膜中皮腫は腫瘍が一個で、限局しており周囲への浸潤や転移・播種の見られないものであって、大きさは様々です。症状は特有のものはなく咳・痰や胸部違和感などで、腫瘍の増大につれて出現する傾向があります。治療としては、外科的切除ということになります。多くの場合、発生した胸膜壁(胸壁・肺・横隔膜など)とともに腫瘍を摘出します。また癒着している部分も切除することになります。予後は良好です。
 
(2)悪性胸膜中皮腫について
 悪性胸膜中皮腫は腫瘍が浸潤や転移・播種などをきたすものです。その症状としては最初には良性と同様に咳・痰や胸部の違和感などが出現しますが、進行が進むにつれて、呼吸困難や胸痛を訴えることが多くなります。悪性胸膜中皮腫はその拡がり・進行の程度により病期が決定されます。悪性中皮腫の病期分類は下記のようになっています。
  ・T期―片側の胸腔内にとどまり、リンパ節転移がない。
  ・U期―片側の胸壁・縦隔に及んでいる。
  ・V期―反対側の胸腔やリンパ節に進展している。
  ・W期―遠隔転移(血行性転移)がある。
治療は悪性胸膜中皮腫が少ないので、完全に確立したものはないが、おおよそ次のとおりです。
  ・T期は手術(胸膜肺全摘除術=片側の肺全部と、胸膜、横隔膜の胸膜側を切除する)を原則
   とし、場合によって放射線治療・化学療法などの治療となります。
  ・U期は放射線治療や化学治療(場合によっては手術治療)となります。
  ・V期は化学療法(場合によっては放射線治療)が行われます。放射線治療によって、胸痛な
   どに効果があることもあります。
  ・W期は化学療法ということになるが、転移部位への放射線治療がおこなわれることもあり
   ます。
 悪性胸膜中皮腫の予後は、残念ながら不良です。多くの場合、2年以内(約半分の患者さんが1年以内)に亡くなってしまいます。しかし、他臓器の癌と同様にT期では手術により、治癒することもあります。

 太田西ノ内病院では呼吸器外科、呼吸器科で、胸膜中皮腫を扱っておりますので、過去に建設業などアスベストに関連する職業に携わったことがあり、ご心配な方は、一度、当院を受診されてはいかがでしょうか。

 
 

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