太田西ノ内病院 小児科
子どもには、ウイルス感染に伴い皮膚に発疹が見られることがよくあります。発熱を伴う場合も伴わない場合もありますが、その多くは特に心配のない一時的なものです。しかしなかには注意深く経過を見なくてはいけないものがあり、またウイルス性発疹症と間違えやすい他の疾患もあります。
最も注意すべきものは麻疹(ましん、はしか)です。最近のわが国の統計でも年間数十人の乳幼児の麻疹による死亡があり、また脳炎を合併し脳に後遺症を残す例も多数知られています。肺炎・気管支炎や中耳炎の合併率も高く、現代でも侮れない病気です。ただ幸いなことに、予防接種(麻疹ワクチン)が極めて有効で、かなり安全な予防ができます。風疹(三日はしか)、水痘(みずぼうそう)なども麻疹ほどではありませんが、合併症があるため、有効な予防接種が使われています。
しばしば見かけるけれども重症化することがめったにない病気として、手足口病(原因として最低7種類のウイルスが知られています!)、伝染性紅斑(りんご病)、突発性発疹(赤ちゃんの病気)、ロタウイルス感染症、伝染性単核症、および名もないかぜウイルスによる発疹症などがあります。
発熱と発疹がみられる病気に川崎病や溶連菌感染症があります。川崎病はやや稀な、赤ちゃんなど小さな子どもの病気で、原因ははっきりしませんが、高熱が続き、目や口の粘膜、手足や体の皮膚、首のリンパ節などに症状が出ます。入院してきちんと治療し心臓などの合併症の予防・治療が必要です。溶連菌感染症は極めてポピュラーな幼児ないし小学生の病気で、のどにバクテリア(溶連菌)がつくことで起こります。診断・治療が適切でないと、発熱だけでなくかゆみのある細かい発疹が出てきます。ウイルス疾患と異なり、抗生物質をきちんと内服することが大切ですが、反復感染も多く見られます。
麻疹、風疹、水痘には脳炎が合併することがあり、経過中に激しい頭痛、けいれん、意識障害が見られたら要注意で、脳炎の診断がつけば入院となり症状をやわらげる治療が行われますが、実際は感染前の予防接種以外には有効な対策はありません。手足口病などで稀に見られる髄膜炎は発熱、頭痛、嘔吐が主な症状ですが、重篤なものではありません。症状が強い場合には入院して経過をみます。
子どもの皮膚のボツボツが心配なあまり、夜間や休日に救急外来に来る方は、稀ではありません。しかし前に述べたように緊急を要する皮膚疾患は多くなく、むしろ発疹以外の症状により緊急度が決まるといっても過言ではありません。麻疹の発疹は急速に現れますがこの頃には、高熱が既に数日続き咳、はなみず、目やに等もひどく、かなり重症感が伴います。川崎病では発疹の出方はゆっくりで必ず高熱も伴っており、このため皮膚症状を一番の心配事として受診されることはあまりありません。
風疹、手足口病、突発性発疹、伝染性紅斑などでは、じんましんと同様、他に症状がなければ緊急性は無く、救急外来では診断と説明のみで終わる場合が多くなります。
感染症が拡大しないようにいくつかの疾患で法律で登園、登校停止期間が定められています。麻疹なら熱が下がって3日たつ日まで、水痘なら水疱がすべてかさぶたになるまで、溶連菌感染症なら抗生物質治療開始24時間後などです。手足口病、伝染性紅斑は、これら施設の独自の判断で、登園・登校を禁じている場合が少なくありませんが、無症状なのにウイルスをまき散らす子どもや、症状が回復した後もウイルスを排出する子どもがいるため、正確を期するなら本人が苦痛となる症状(発熱、口内炎など)がなければ登園・登校を禁止する根拠はありません。
子どもに多く見られるウイルス疾患については小児科医がその予防、診断、合併症の可能性、予後等について多くの情報と経験を持って診療に当たっています。重篤な病気の可能性がある場合には迅速な検査と集中的な治療が必要です。当院小児科では軽症から重症まで子ども達の状況に応じた対応をしています。
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