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食中毒について

太田熱海病院 消化器科

はじめに

 食中毒は、細菌性食中毒が最も多くみられ、全食中毒の90%以上を占めています。その他には、きのこやふぐ等の自然毒や、薬物や異物混入によって発症する場合があります。
 以前はサルモネラ菌や腸炎ビプリオ菌による食中毒が注目されていましたが、最近では、病原性大腸菌(O−157)が注目されています。1996年の学校給食を介した集団食中毒をはじめ、98年の北海道産イクラの汚染など世間を騒がせる大事件が毎年のように発生しています。今年は、乳製品を介してブドウ球菌毒素による食中毒事件が発生して、多くの方が被害にあったことは記憶に新しいことと思います。

食中毒発生状況

 厚生省に報告された食中毒事件の統計によると平成7年は699件、平成8年は1216件、平成9年は1960件、平成10年は3010件と近年増加傾向にあります。昨年も2697件の発生が報告されています。

好発時期

 食中毒は年間を通じて発生しますが、特に夏に多発する傾向があります。高温多湿の気候が、食中毒の原因菌の繁殖に適しているためと考えられます。冬の寒い時期にも、暖房などで気温が高く保たれている場合など、条件が揃えば菌の繁殖が促されます。

細菌性食中毒の種類と発症形式

 細菌性食中毒は、一般に感染型と毒素型に分類されます。摂取された菌が腸管内で感染増殖して発症するものを感染型、既に食品の中で産生した毒素によって発症するものを毒素型と呼びます。通常、腸炎ビプリオやサルモネラ菌、病原性大腸菌などは感染型、黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌などは毒素型に分類されます。感染型では腸管で増殖したあとで発症するため症状の出現にある程度時間がかかるのに対して、毒素型では比較的早期に症状が出現する傾向があります。大腸菌は一般には感染型に分類されていますが、有名な病原性大腸菌O−157は、ベロ毒素と呼ばれる毒素を産生し重篤な出血性腸炎をひきおこすため、毒素型に分類されます。このように同じ菌種でも発症形式が異なる場合があり注意を要します。

原因となりやすい食品

 摂取した食品によって原因菌が推測できる場合があります。たとえば、魚介類では腸炎ビプリ
オ、肉や卵の場合はサルモネラ菌やエルシニア、カンピロパクターなどが疑われます。乳製品や握り飯では黄色ブドウ球菌などを疑います。もちろん調理や加工の段階で別の菌で汚染される場合もあります。

症状

 食中毒ですから、消化器症状が主体となります。つまり、吐き気や腹痛を起こし、下痢を伴います。下痢は軟便程度の軽いものから、水様便、粘血便、血便と重症度に応じてまちまちです。
発熱する場合もあります。一般に、 症状と重症度は一致することが多いのですが、病原性大腸菌O−157などでは、 消化器症状が軽微でも毒素による合併症が重篤化してしまう場合があります。また、ボツリヌス菌では、神経麻痺などの特殊な症状を引き起こします。

治療

 原因菌が判明するまでは対症療法が中心となります。これは内科や消化器内科の先生が患者さんを診察して、症状や所見に応じて決定していきます。詳細は病院を受診した上で聞いてください。

汚染された食品は、見分けることができるでしょうか?

 食中毒の患者さんにお話しをうかがうと、味が変だったとか、おかしな臭いがしたとか、色が変わっていたとか、いろいろな証言を得ることができます。これらは、食品自体が腐敗していたり、発酵していたことを示す場合がほとんどです。食品に異常があることを示す所見であることには間違いありません。しかし、食中毒を起こす細菌自体は、味も臭いも色もありません。大量の菌が付着していても私たちには何もわからないのです。

予防対策

 予防のポイントは、3つあります。
 まず、食材に細菌をつけないことです。最も基本となるのは、調理や食事の前に手を洗うこてです。そして、食材は別々に水洗いします。水洗いは水道水で行います。井戸水やためた水を使うのは望ましくありません。複雑な形の野菜を洗うときは、熱湯で5秒間または、60℃のお湯で1分程湯がくのが効果的と言われています。また、包丁、まな板、食器、布巾なども熱湯消毒してください。
 次は、細菌を増やさないことです。新鮮で清潔なものをすぐに食べてしまえればよいわけです
が、食品を保存する場合は必ず冷蔵庫に保管してください。10℃以下(冷蔵)か、−15℃以下(冷凍)を保つようにします。しかし、こうしておいても菌が死滅するわけではないので過信してはいけません。長期間の保管は禁物です。また解凍を室温でおこなうと、菌が予想以上に増殖してしまう場合があります。
 最後は菌を殺す(殺菌)ことです。食品を充分加熱することで付着している菌を殺します。調理の際に食品を75℃以上に加熱してください。特に加工食品は、中心温度が75℃以上になるように充分な加熱が必要です。単に温めるだけでは効果はありません。

最後に

 毎年のように大規模な食中毒事件が発生し、食品衛生管理上の問題が指摘されるようになっていますが、食中毒は毎日食べている家庭の食事の中でも発生しています。上記のことに留意して食中毒から身を守りましょう。

 
 

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