太田西ノ内病院 呼吸器科
ARDSとは、acute (adult) respiratory distress syndrome の頭文字をとったもので、日本語では、急性(成人)呼吸促迫症候群あるいは急性呼吸窮迫症候群といいます。この概念が提唱された当初の他の呼称がこの症候群の状態を良く示しています。例えば、ダ・ナン肺、ショック肺、白色肺(white lung)などです。ダ・ナンはヴェトナムの都市名ですが、ヴェトナム戦争の時に、手足などに銃弾を受けた米軍兵士が、手厚い医療にも拘わらず、それに元々肺には何の異常もなかったのに、数日後に急に肺が真っ白になってしまう症例が続出したのです。肺は固くなって、呼吸は浅く早い状態で、重症の低酸素血症を起こし、普通の酸素吸入をしても動脈の中の酸素は上昇せず、急性呼吸不全という状態で高い死亡率(50%以上)を呈した病態です。その後この病態の研究が進み、ダ・ナン肺は輸血や輸液のやり過ぎや、ショック状態や敗血症などが原因をなしていることが分かりました。従って、ARDSという病態は単一のものではなく、さまざまな誘因、さまざまなメカニズムが絡み合って発生するのですが、そのメカニズムには、白血球由来の組織を傷害する酸素やメディエータと呼ばれる化学物質、生体にとって有害な活性酸素、さらにインターロイキンなどのサイトカインと総称される物質などが関係します。病理学的な診断でいえば、ARDSは非心原性肺水腫や透過性亢進型肺水腫と同じと考えてよいでしょう。
最近では、固い肺に陽圧をかけて換気をする方法など、治療法が進歩し、また医師の認識も深まってきましたが、死亡率は一般にはなお30%程度と考えられています。呼吸の集中管理のできる、治療装置の整った病院では、救命出来る率が飛躍的に良くなっていますので、専門医の診療が重要です。
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