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高齢者と嚥下性肺炎

太田西ノ内病院 呼吸器科

高齢者の肺炎

 抗生物質はフレミングがペニシリンを見つけた(1928年)後、薬として使われ始めて60年が経ち、細菌性肺炎の多くが治るようになりました。そしてフレミングは1945年にはノーベル賞を受賞しています。しかし、今でも細菌性肺炎は命に関わる重大な疾患であり続けています。特に65歳以上の高齢者ではがん、心臓、脳卒中に続いて死因の4位にランクされています(厚生労働省 平成15年統計)。高齢者に肺炎が多い理由のひとつに誤嚥(嚥下性肺炎)があります。

咽頭は食物と息の交差点

 食物は口から咽頭を通って前から後ろ側の食道を通過して胃に落ちます。一方、呼吸運動で息は鼻から吸い込んで後ろ側から咽頭部で前側の喉頭を通ってから気管に入り気管支を経て肺に到達します。このとき咽頭は交差点の役割を果たしています。

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上気道の構造 食物の嚥下 吸息の流れ

老化と嚥下

 気管に唾液やご飯が入るとムセて咳き込みます。この咳反射がしっかりしていればムセることはあっても肺炎にまではなりません。嚥下反射が衰えると同時に咳反射も低下すると吸気以外に食物や唾液、それに含まれる細菌が本来は清潔な気道に入り込むようになります。少量ならば気道の粘膜線毛輸送系や免疫機能が働いて細菌を防御しますが、誤嚥が悪化すると嚥下性肺炎を繰返すようになります。嚥下障害の1番の原因は脳血管障害による球麻痺ですが、脳血管障害がなくても老化による嚥下機能低下も重要です。

誤嚥と逆流

 細菌の気管への侵入ルートには食物摂取時の誤嚥だけではなく、気づかないうちに起きている口腔内唾液の気管内流入や気道内分泌物と胃液中の細菌の類似があるとことから一旦胃に入った物(胃内容物)の逆流もあります。高齢者の繰返す肺炎にはこの嘔吐やムセることのないタイプの嚥下性肺炎が注目されています。嚥下性肺炎食事での誤嚥を切掛けに肺炎が起こることがあります。多くは脳卒中の後遺症によるものですが、手術後におこる術後肺炎の重要な原因のひとつでもあります。また、はっきりとした脳卒中の所見がなくても高齢者では食事中によくムセたり、不眠症などで向精神薬を使用すること、また老化自体で嚥下性肺炎を起こし易くなっています。嚥下性の肺炎の証拠としては気道内の吸引から食物残さが見つかることもありますが、重力の関係で肺炎が起こりやすい場所とされている背部や下肺に肺炎を繰返すことがあります。また、胃内容物逆流の証明法としては胃内視鏡による逆流性食道炎の所見や食道の24時間PHモニターによる胃酸逆流検査があります。嚥下性肺炎は口腔内の嫌気性菌や複数菌による混合感染が特徴とされています。

口腔ケアと食後の姿勢

 食事摂取をするときに誤嚥を防止するには嚥下訓練ですが、食後の歯磨きに代表されるマウスケアと呼んでいる口腔内を清潔に保つ操作を行なうことで唾液内の病原菌を減らすことも有力な予防策です。また、胃内容物の逆流には重力の影響があるので胃に食物がの残っているうち(少なくとも食後1時間)は横にならないで座っている姿勢を保つようにします。

熱海病院嚥下センター

 太田熱海病院 嚥下センターは食物の飲みこみが困難であったり、むせたりする方を対象に治
療・訓練を行い、安全に食事ができるように目指しています。私達は普段、特別に意識することはありませんが、食べること、飲みこむ行為には多くの身体機能が関わりますので、その治療・訓練には多種の専門的技術が必要とされます。当センターの診療は医師をはじめ、看護師、管理栄養士、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、歯科衛生士など多くの専門職のチーム医療によって行っています。

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