太田西ノ内病院 呼吸器科
喫煙と関連する肺疾患には肺癌とCOPDが2大疾患です。肺癌の恐ろしさと喫煙の関係は良くご存知のことですが、COPDとの関係は長年の喫煙の結果として診断され息切れの自覚症状は他人には理解しにくいことなので、肺癌ほど一般の人にとっては恐ろしい病気とは思われていない節があります。しかし、息切れだんだん悪くなるのが止まらないとなると、外出ができなくなり、家にいても風呂に入るのもつらくなります。こうなってからでは取り返しがつきません。ところが、喫煙から40年たってから発症するとなると、20歳から喫煙して60歳ごろから症状が現れることになります。漫然と喫煙を続けて、自覚症状が出て気づいたときには手遅れ、タバコを吸って年をとったのが運の尽きで、さびしくつらい高齢期を迎えることになります。このCOPDは、これまでの紙巻タバコの販売数から予測すれば、予備軍が最近まで増え続けているが明らかなので、今後発症が予想されるCOPDは間近に迫っている高齢化社会での最も重要な疾患になることは間違いありません。今後さらに禁煙運動が盛んになってもCOPDの減少といった効果が現れるまでにはさらに20年以上の年月が必要でしょう。
肺胞が破壊されて気腔が大きくなる、それは、夏は緑豊かだったケヤキの木が秋から冬になって葉が枯れ落ちてスカスカになって明るく透けて見えている状態に似ています。緑豊かなときの葉は光合成をして二酸化炭素を減らし、酸素を再生産していましたが、肺は葉の代わりの肺胞で体に溜まった二酸化炭素を体外に排泄して、酸素を体に取込む働きをしています。その肺胞が減ってしまうと二酸化炭素が溜まり、酸素が入りにくくなってしまいます。酸素は酸素吸入すれば多少は助かりますが、二酸化炭素が出にくくなってはいくら呼吸しても疲れるばかりです。一生懸命呼吸をしても二酸化炭素が出て行かない状態が呼吸困難として自覚されているわけです。
![]() |
![]() |
![]() |
元気なケヤキの木 | 葉っぱの落ちたケヤキの木 | タバコが原因 |
酸素療法が呼吸を楽にして寿命が長くなることは終点の近い慢性呼吸不全の状態になったときには明白であることが実証されています。呼吸不全になる前は気管支拡張剤で呼吸を少しでも楽にさせるようにしますが、気管支喘息ほどには薬が効きません。肺胞が破壊されるのは肺胞レベルでの炎症が原因ですが、それを止める確実な方法はありません。ましてや破壊されて肺胞はもとに戻りません。最大の原因は喫煙ですからCOPDが発症する前にいかに早く気づいて喫煙をやめるかが肝心なことです。喫煙者が100%COPDになるのなら喫煙者が禁煙するのは案外易しいことかもしれませんが、10から20%にしか発症しないので、自分は大丈夫と勘違いするのも無理ないかもしれません。そこで、早期に本人を納得させて禁煙させるためには肺機能検査が有効です。簡単な検査で発症前に診断できて、早期に禁煙できればCOPDを発症しないで天寿を全うできます。血圧計で高血圧が分れば降圧剤を飲み、血糖を測定して糖尿病が診断されれば食事療法をするように生活習慣に関わる疾患は発症する前から治療に取り掛かることが重要なことはCOPDでも全く同じことです。
一般財団法人 太田綜合病院 Copyright © Ohta General Hospital All rights reserved .