太田西ノ内病院 呼吸器科
呼吸不全と言う言葉は耳慣れない言葉かもしれませんが、心不全とか腎不全という言葉なら誰でも馴染みがおありでしょう。呼吸不全とは肺での呼吸がうまくできないために、他の臓器(心臓、腎臓、脳などあらゆる臓器)の機能までが、うまく働かなくなってしまう状態です。だから、放っておくと坂を転げるように状態が悪くなって大変なことになります。
肺は静脈血で運ばれた二酸化炭素を肺から呼気として体外に排泄して、代わりに大気中の酸素を血液に送り込んで真っ赤な動脈血に変えています。この酸素をいっぱい含んだ動脈血は心臓のポンプ機能で全身の隅々の臓器に送り届けられて臓器の活動エネルギーの燃焼に働きます。これが筋肉に働けば有酸素運動になります。ですから有酸素運動を効率的に行うためには心肺機能が一番重要になります。マラソン選手にとっては、優秀な選手とはボディは軽くエンジンは大きいことです。痩せているのに強いのは、酸素なしで筋肉だけで走る短距離選手とは体型が違うのが合理的だからです。
呼吸不全と呼ぶのはどういう状態でしょうか。それは酸素をうまく取り入れられない状態です。酸素は赤血球のヘモグロビンという貨車に積まれて運ばれているので、たくさん詰まれている(酸素飽和度90%以上なら十分です)のが健康な人の動脈血です。90%を下回ると酸素の運搬効率が低下してくると呼吸不全になります(正確には血液中の酸素分圧で決められています)。大気中より高い酸素濃度を吸入すれば動脈に取込まれる酸素量も増えることから、呼吸不全には酸素療法が不可欠です。
呼吸不全には急性と慢性があります。急性はもともと肺に異常がなかったひとが肺炎や敗血症などが原因で急に酸素を取込めなくなった状態です。酸素吸入だけで治らない重症になると人工呼吸を行うことが必要になります。一方、慢性呼吸不全は肺そのものの疾患のために酸素が取込めなくなっている状態です。代表的な病気は慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。肺癌や肺線維症なども原因になります。このときの治療が在宅酸素療法です。
日常生活が楽になり、長生きできることから、現在、わが国では10万人程度の患者さんが自宅で24時間酸素吸入をされています。そうした状態でも仕事や旅行といった社会生活もエンジョイされている方がたもたくさんいらっしゃいます。
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