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最近の肺結核は昔と違う?

太田西ノ内病院 呼吸器科

結核はまだ油断できない病気

 結核が恐ろしい伝染病(国民病)であった時代は強力な結核治療薬(リファンピシン)が登場(1966年)したのと同じ時期に開催された東京オリンピック(1964年)の思い出と共に私達には遠い昔の記憶になりました。結核は現在では適切に診断して治療すれば確実に治すことができ、周囲の人への伝染(集団感染といいます)も防止できます。しかし現在でもわが国では新しい結核患者が毎年3万人以上見つかっているのでまだまだ油断はできません。

羅患率

現在の日本における結核の問題点はつぎの6つに要約できます。

1.新患者発生率(罹患率)が人口10万人あたり25名で一桁台の欧米に比べて3〜5倍多い。
2.結核未感染者が増加したので、集団感染の危険が高くなっている。
3.不適切な治療による薬の効かない結核(多剤耐性結核)が問題になってきている。
4.エイズや糖尿病などの基礎疾患のある患者や高齢者の結核が問題になっている
5.結核の診断と治療を得意とする医師や医療関係者が極めて少なくなっている。
6.高汚染地域からの外国人の結核発症が増えてきている。

標準治療とDOTS(ドッツ)

 このために、現在の結核の治療戦略は第1が診断の迅速化と標準治療法の徹底。第2がDOTSと呼ばれる監視下の服薬による治療の実施の徹底。第3に接触者検診の徹底による感染拡大の防止を重点にしている。一方、従来重視していた結核の集団検診とBCG接種を簡略化することを行なっています。その結果、BCGの接種は結核性髄膜炎の予防効果がある生後3ヶ月から6ヶ月の間に1回接種すること残して、集団接種はやらなくてよくなりました。標準治療法は2つあり、抗結核薬を2ヶ月間は4剤、残りの4ヶ月を2剤または3剤使用する方法です。もうひとつは3剤を4ヶ月、残りの5ヶ月を2剤または3剤投与する方法です。前者の方法が何らかの理由で困難なときに後者を使用するルールになりました。

ツベルクリン反応とBCG

 BCGの接種は現在では生後3ヶ月から半年の間に行なうことだけを残して、学童期のツベルクリン反応とBCG接種は中止されました。BCGは幼少時に多く命に関わる結核性髄膜炎の予防効果が明らかなことが結核がまだ欧米に比べて多いわが国では接種を続けている理由です。BCGの効果がどれくらい持続するかということははっきりしていませんが、数十年間続いているという報告もありますまたBCGの結核予防効果の程度も報告がマチマチですが、50%ぐらい(接種いていれば半分くらいに発症者や死亡者が減る)と言われています。結核の危険が低くなった現在では国民全体に幼児期から学童期に渡って繰り返しBCGを接種する意義はなくなっています。現在、BCGより優れたワクチンの開発が進められていますがまだ実用段階ではありません。BCGは開発から50年以上が経過していますが当初と 比べて有効性が低下したために止めてきたのではありません。現在の治療と予防の重点が結核発病者を中心に強力に行なうことに方向転換してきたのです。

結核感染と予防内服

 結核の発病者の家族や職場の同僚は感染の危険性を判断して保健所の指示に基づいて接触者検診を受けてもらうことになります。この際30歳以下の若年者は胸部レントゲン検査と共にツベルクリン反応で感染の可能性についても検討することになっています。新聞などで学校の先生が結核を発病したために教え子の小、中学校の生徒に感染者が10数人出たというようなニュースが載ることがありませが、これらの生徒は接触者検診でツベルクリン反応が強く出たために先生から感染を受けた可能性があることを意味しています。こうした胸部レントゲンに異常のないツベルクリン陽転者には1剤のみの結核治療薬(ヒドラジド)を6ヶ月間内服してもらいます。これを予防内服と呼んでいます。

 
 

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