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嚢胞性腎疾患について

太田西ノ内病院 腎臓内科

 嚢胞性腎疾患(cystic renal disease)とは、腎臓に嚢胞ができた状態をいい、生まれつきのもの(先天性)と生後のもの(後天性)に分類されます。一部には、先天性か、後天性か不明のものもあります。嚢胞性腎疾患は以下の様に分類されます。

◆分類
 1)先天性腎嚢胞

@常染色体性優性多発性嚢胞腎
A常染色体劣性多発性嚢胞腎
B多嚢胞腎
C髄質海綿腎
D結節性硬化に伴う嚢胞

 2)後天性腎嚢胞

@後天性腎嚢胞
A各種病変に伴う二次的嚢胞(腎細胞癌、ウイルムス腫瘍などに伴う嚢胞)

 3)先天性か後天性か不明の腎嚢胞

@単純性腎嚢胞
A傍腎孟嚢胞
B多房性腎嚢胞

この中で比較的頻度の多いものについて述べてみます。

1.単純性腎嚢胞

(病因) 一般に1つの腎臓に見られ腎臓の外側(皮質)に認められるもので、内部に透明な液体を容れています。なぜ嚢胞ができるかは不明ですが、腎虚血、尿細管(腎臓内にあり、尿の元である原尿が通過する管)の閉塞あるいは髄質(腎臓の内側の部分)の間質線維化などが考えられています。
(臨床所見) 30才以前に認めるのは少なく、男性に多いという報告もあります。嚢胞が小さい場合は無症状ですが、大きくなると腹部に腫瘤状に触れたり、時に血尿などが見られます。この単純性腎嚢胞では腎臓のはたらきは低下しないといわれています。
(診断) 造影剤を使った腎臓のレントゲン検査(排泄性腎孟撮影法など)、超音波診断、コンピュータ断層撮影、MRI、血管撮影、嚢胞穿刺と嚢胞造影などにより診断されます。他の嚢胞性疾患でもこれらの検査を組み合わせて診断します。
(合併症) 出血性嚢胞(嚢胞内に血液が充満するもので、外傷に伴って起ることが多く、稀に嚢胞内腫瘍の出血によることもあります)、感染(膀胱尿管逆流現象や、尿路感染症に伴うことがあります)、嚢胞破裂(稀な合併症で、無症状ないし腹痛が出現します)、嚢胞内腎癌(結節状に生育することが多い様です)。

2.後天性嚢胞腎

(病因) 両側性の腎嚢胞で透析療法を受けている40%以上の患者さんに認められます。両側の腎の皮質および髄質に多発性の小さな嚢胞が形成され、腎実質全体にまで広がり、一般に嚢胞内の溶液は清明ですが時に出血することがあります。カルシウムの結晶が含まれることがあります。嚢胞の形成は、尿細管細胞由来と考えられ、その周りの間質に線維化などが起ることにより尿細管が圧迫、狭窄し嚢胞が作られると想定されています。
(臨床所見) 嚢胞自体では、ほとんどの患者さんでは無症状です。2つの病態が臨床上問題となります。(1)腎出血;腎嚢胞内への出血が多く、稀に腎癌内への出血もあります。嚢胞内の硬化した血管の自然破裂や軽い外傷などが原因となります。(2)腎癌;約7%の患者さんで腎臓の腫瘍が発生するといわれています。一般に無症状で、大きくなった腫瘤により腹部の圧迫感などで気付かれることがあります。3cm以上のものは摘出します。

3.常染色体劣性多発性嚢胞腎

 性染色体以外の常染色体異常に関連した腎臓の嚢胞性疾患で、劣性遺伝(遺伝形質が所見として表面に出にくい遺伝形式で、所見が出易い形式を優性遺伝といいます)し、乳児期に発症します。6000人ないし14000人に1人発症するといわれています。

(病因) 胎生期の腎臓において、集合管(尿細管の末端で他の尿細管と結合する部位)の萎縮などにより集合管より上部に向かって拡張し嚢胞を形成するといわれています。同時に胆管も先天性の異常により拡張し、肝臓の障害を起こすことがあります。
(臨床所見) @出生時ないし乳児期;腎臓が著しく腫大し、重篤な腎不全をおこします。尿量が減少し、さらに呼吸器の低形成により出生児に重篤な呼吸不全を起こし、腎不全と呼吸不全により死亡する危険が高い疾患です。A小児期;症状の出現が早い程、腎機能低下や高血圧が重篤となり、発症が高年齢になる程、肝臓障害が前面に出ます。腹部の腫瘤や、腎不全の症状が乳児期早期から認められることがあります。肝障害が主となる例では腎障害、腎嚢胞は限定的となります。

4.常染色体優性多発生嚢胞腎

 常染色体の優性遺伝形式による嚢胞腎で、家族内発生が多い疾患です。

(病因) 2個の遺伝子異常が判明しています。一つは16番目の染色体にある遺伝子PKD1異常で、日本では患者さんで80%に認められます。もう一つは4番目の染色体にある遺伝子PKD2で、PKD1によるものの方が腎機能の低下などの臨床症状が重篤とされています。
(臨床所見) 両側の腎臓の腫大、腹部の圧迫感、血尿。また、高血圧の頻度も高く、腎機能を悪化させる危険因子とされています。頭蓋内動脈瘤の合併も多く、くも膜下出血を起こす患者さんもいます。一般に40才以下で腎不全に陥ることは稀で、男性の方が腎不全の頻度、透析療法を要する年令が若いといわれています。蛋白尿を有する例は腎不全への移行が心配されます。しかし、腎不全に陥り、透析が必要となるのは約50%程度であり、正確な診断と腎臓の庇護、高血圧の管理が重要と言えます。
(診断) 上記の画像診断によりますが同時に肝臓、膵臓、肺などの多発嚢胞を認めま
す。脳血管の異常を検討することも大変重要です。心臓弁膜症の合併頻度も高い(10〜20%)ため心臓の超音波検査も行う必要があります。
 
 

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