太田西ノ内病院 腎臓内科
腎臓の働きには、@尿を作り体内にできる老廃物や毒素を排泄し体を健康な状態に保つ作用のほか、A体内の水分量の調節、B電解質(ナトリウム、カリウムなど)の調節、C血圧の調節、D血液を作るホルモン(エリスロポエチン)の産生、E各種ホルモンの作用を受ける(副腎ホルモン、副甲状腺ホルモンなど)、F骨の代謝に関係するなど非常に多くの作用をしています。これらの働きが失われると、正常な生活を営めず最悪の場合死に至ることもあります。この腎臓の働きが失われた状態を腎不全といいます。一方、腎臓は体内の蛋白質など必要な成分を排泄しないようにできていますが、ある種の腎臓病では大量に蛋白質が尿中に出てしまい、体がむくみ、ひどければ呼吸困難など重篤な病態に陥る疾患があり、これをネフローゼ症候群といいます。
腎臓病は一般に無症状で発症し、潜在性に進行するため、前述の重篤な状態に陥るまで病気を認識しないことがあり、治療の可能な時機を逸してから病院を受診する代表的な疾患です。日本では、幸いに検診制度が発達しているため、無症状の早期のうちに病気を発見することが可能ですが、自覚症状がないため受診されない患者さんも多く、その結果、治療が遅れ透析療法をするしかないなど、治療の選択肢が少なくなってしまうことがあります。
腎疾患の早期発見には、尿検査が重要です。健康な方は一般には尿中に蛋白質や血液はほとんど出ませんので、もし検診などで尿の異常を指摘されたら、無症状であっても再検査を受ける必要があります。再検査でも尿の異常があれば専門医に相談する必要があります。
腎疾患には、腎臓だけ障害される原発性腎炎と、前進疾患の一症状として腎障害がみられる続発性腎炎に分類されます。原発性腎疾患の多くは原因がなお不明で、腎臓内で尿を作る糸球体という微小血管に炎症が起きるものです。糸球体の形態を観察し、その病態にあった治療法を検討することが必要になることがあります(腎生検)。腎生検で診断される原発性腎疾患としては、@微小変化群、A巣状糸球体硬化症、B膜性腎症、C膜性増殖性腎炎、Dメサンジウム増殖性腎炎、E半月体形成性腎炎、F管内増殖性腎炎などがあり、それぞれ臨床的な特徴を有します。この原発性腎炎の中で腎不全に移行する頻度の高いもののうち、近年lgA腎症が注目されています。これは、多くはメサンジウム増殖性腎炎の像をとり、免疫組織学的検討により糸球体の中に免疫グロブリンA(lgA)が沈着しているのが特徴である疾患で、多くは血尿(肉眼でみてわかるほどの血尿のことがあります)が主体の尿異常があり、その60%近くはあまり腎臓は悪化しないですむようですが、残りは進行することがあり注意が必要です。この疾患については透析に移行するのを阻止するため、国が研究班を作り検査と治療に関し全国的に調査しています。また福島県でも県立医大を中心に、当院も含め、福島県独自の研究も行っています。今後の研究成果が待たれるところです。
続発性腎疾患の場合、最も重要なものは糖尿病によって起こる糖尿病性腎症です。先ほどのlgA腎症とこの糖尿病性腎症が透析療法を必要とする代表的な疾患です。糖尿病は体内のインスリンが全く出ない1型と摂取エネルギー過剰や運動不足などにより相対的にインスリンが不足する2型とがあります。糖尿病では細小血管症といって腎臓、網膜および神経に行く細い血管が特徴的に障害され、その進展はやはり潜在的であり、自覚症状がなくてもこれらの合併症の検査を定期的にする必要があります。糖尿病性腎症では、多くは糖尿病発症後10年以上たってから尿中にアルブミンが少量、次第に増加し、前述のネフローゼ症候群(高度の蛋白尿、体内の蛋白質の減少、高コレステロール血症、浮腫)をきたし、さらに腎不全に陥るきわめてやっかいな疾患であり、その点からも糖尿病の管理が非常に重要といえます。続発性腎疾患の中で膠原病によるものもあり、特に全身性エリテマトーデス(SLE)によっておこるループス腎炎が多くみられます。その他、小児科領域に多い遺伝性腎炎や、成人しても腎炎が治らない腎炎もあり、さらに薬物により腎臓が障害される疾患もあります。
腎疾患の管理は内科(腎臓内科、糖尿病科、循環器科など)、眼科、泌尿器科をはじめ多くの科にまたがって診療を受ける必要があり、全身管理が重要な疾患といえます。
一般財団法人 太田綜合病院 Copyright © Ohta General Hospital All rights reserved .